東京高等裁判所 平成11年(ネ)5876号 判決 2000年9月28日
控訴人(附帯被控訴人、被告)
株式会社プロパスト
代表者代表取締役
森俊一
訴訟代理人弁護士
羽野島裕二
補佐人弁理士
網野友康
同
押本泰彦
同
古関宏
同
近藤史代
弁護士、弁理士
島田康男
弁理士
杉本ゆみ子
同
広瀬文彦
同
松田治躬
同
安原正義
被控訴人(附帯控訴人、原告)
住友不動産株式会社
代表者代表取締役
高島準司
訴訟代理人弁護士
牧野利秋
同
鈴木修
同
矢部耕三
補佐人弁理士
青木博通
主文
本件控訴及び附帯控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人(被告)の負担とし、附帯控訴費用は附帯控訴人(原告)の負担とする。
事実及び理由
第一 申立て
一 控訴の趣旨
「原判決中主文第三項(金銭支払命令)を取り消す。
右の部分に係る被控訴人(原告)の請求を棄却する。」
との判決を求める。
二 附帯控訴の趣旨
「原判決主文第三項、第四項を次のとおり変更する。
附帯被控訴人(被告)は附帯控訴人(原告)に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。」
との判決を求める。
第二 事案の概要
一 訴訟の経緯
原告は、「土地の売買、建物の売買」を指定役務とする本件登録商標(「本件登録商標一」(ヴィラージュ)と「本件登録商標二」(楕円の中に「Village」の語を配したもの)の総称。原判決四頁の一1の項)の商標権者であるが、本件登録商標と類似する被告標章(「ヴィラージュ白山」及び「VILLAGE」の各標章。原判決四頁から五頁の一2の項)をその名称に使用して本件マンション(原判決四頁から五頁の一2の項)を分譲販売した被告に対し、①被告標章は本件登録商標の指定役務である「建物の売買」に使用したか、又は、②右指定役務に類似する建物という商品である本件マンションに被告標章を付したと主張して、商標権侵害による差止め及び損害賠償を請求したのに対し、原判決は、①の主張による商標権侵害は認められないが、②の主張による商標権侵害が認められるとして、被告の行為の差止め並びに五〇〇万円及び遅延損害金の支払を命じた。
被告は、被告敗訴部分の取消し及び原告の請求棄却を求めて控訴し、その後差止命令部分の取消しを求める部分については控訴を取り下げた。これに対して、原告は、原判決が支払を命じた額を超え合わせて一〇〇〇万円の額の損害賠償を求めて附帯控訴をした。
争いのない事実、争点及び当事者の主張は、原判決四頁四行目から一四頁三行目までに示されているとおりである。
二 当審における主たる争点
被告は、右②の原告の主張を認めた原判決の判断を争い、商標法上の商品性が肯定されるためには、「反覆して取引の対象となり得る運搬可能な有体動産であって、大量生産されるもの」であることが必要であるとして、分譲マンションの各住居は、運搬性がなく、有体動産でもないし、大量生産にもなじまず、代替性がないから、商標法上の商品とはいえないと主張する。
原告は、当審においても、前記①の主張を維持し、被告標章の使用は、本件登録商標の指定役務である「建物の売買」に使用したものであると主張し、②の主張に関しては、被告の右主張を争っている。
第三 当審の判断
一 基本的な前提事実は、原判決一四頁六行目から一六頁一行目までに認定されているとおりであるが、まず、当審における主たる争点である原告の①の主張、すなわち、被告が、本件登録商標の指定役務である「建物の売買」(本件で具体的に問題となっているのは、建物の販売である。)に被告標章を使用したということができるか否かについて検討する。
二 被告は、本件マンションを分譲販売したものであり、その名称として本件登録標章に類似する被告標章を使用したものであるが、一般に、マンションの住居の分譲販売に当たって、分譲販売業者は、売買という契約成立ないしその履行に至るまでの間に、販売の勧誘や売買交渉過程において、購入希望者等に対し、マンションの特徴、住居部分の間取り、内装設備、周辺地域の状況、販売価格の合理性、管理形態、さらには住宅ローンの内容など様々な説明を行い、モデルルームの展示をするほか、当然のことながら工事中のマンションあるいは完成後のマンションの内外部を案内するのが実態であり、また、購入予定者に対する住宅ローンの斡旋などを行うこともあり、行政規制としては、宅地建物取引業法三五条の重要事項の説明が必要となっていることは、当裁判所に顕著な事実である。これらの分譲販売業者の行為は、マンションの分譲販売に際して行われるものとして、建物の売買という役務に属する行為であるというべきである。
この間に、マンションの建物の名称が使用される機会が多く、マンションの建物自体や、モデルルーム、定価表、取引書類その他の売買関係書類、あるいは、看板、のぼり、チラシ、パンフレット、新聞広告などの広告にも建物の名称も使用されるものであろうことは、おのずと推認されるところである。
本件においても、被告が本件登録商標に類似する被告標章を本件マンションの名称として使用し、分譲販売した際に、本件マンションの階段入り口部分の表示板に被告標章を付したり、被告標章を付した立て看板、垂れ幕などが掲示され、被告標章を付したチラシ、パンフレットの配付がされたことは、前記引用の原判決一四頁の1(一)の項に認定のとおりである。これら被告標章を付した行為は、マンションの分譲販売に際して行われる役務提供の際になされたものであり、被告標章は、建物の販売の役務の提供に当たり、販売の役務の提供を受ける者、すなわちマンション購入希望者が購入予定物件の内容の案内を受けるなどの際に使用されたものであって、これが、本件登録商標の指定役務である「建物の売買」についての使用に該当することは明らかである。
そうすると、原判決四頁から五頁にかけての「一 争いのない事実」の2の項に摘示された被告の行為、具体的には一四頁の1(一)の項に認定の被告の行為は、商標法二条三項三号、四号、五号又は七号に該当し、同法三七条一号により、本件商標権を侵害するものとみなされる。
三 被告は、被告標章の使用差止めを命じた原判決部分に対する控訴を取り下げ、これに対する原判決の判断部分は当審の審理の範囲外となったので、被告の本件商標権の侵害により原告が被った損害額について判断するに、その内容は、原判決二五頁八行目から二七頁九行目までに示されているとおりであり、本件マンション販売価格の合計額の約0.5パーセントに当たる五〇〇万円を使用料相当額と認め、これを損害額とした原判決の認定、判断は相当であると是認することができる。原告は、商標権の使用料が宅地建物取引業者の手数料(報酬の額)に比して著しく低額であるとするのは妥当でないと主張するが、商標権の使用料額が宅地建物取引業者の手数料を上回る事例の存在を認めるべき証拠はなく、原告の右主張は採用することができない。
四 よって、五〇〇万円の損害賠償及びこれに対する不法行為の後である平成一一年一月二六日(訴状送達の日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を被告に命じた原判決部分は相当であり、本件控訴、附帯控訴とも理由がない。
第四 結論
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官永井紀昭 裁判官塩月秀平 裁判官橋本英史)
別紙抗告の理由<省略>